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語ることって大事

なぜ僕が『君の名は。』に対して、素直に素晴らしいと言えないのか。

はい、最近『君の名は。』が地上波初放送されました。私は見なかったですが、Twitterのタイムラインで感想が流れて来るのを読んでました。なかなかコアな話題もたくさん流れてきたので、それだけでも面白かったですね。

これまで新海誠作品を見てきた人にとって『君の名は。』は、特に『秒速5センチメートル』の衝撃からやっと解放してくれた記念碑的作品なのだ、という感想は僕にとっても心当たりがあります。

僕は、いまでも新海誠の最高傑作は、『秒速』だと思ってますから。だって考えても見てくださいよ。『秒速』を初めて見たのは、僕がまだ中学高校のあたりですよ?それに比べて『君の名は。』の時点で僕は、それなりに成長して、新鮮味をダイレクトに受け止めないで済む鎧を着てますからね。そんな僕が『君の名は。』が『秒速』を越えたなんて、本心からは言えないんです。

 

『秒速』がいかに「根暗男子たち」に衝撃を与えたのかって話ですよ。学生時代に、とにかく恋が成就せず、そのことを引きずりながら生きている主人公を描いておきながら、成就しなかった恋をさも人生のメインイベントだったかのように描く呪いみたいな映画なんですけどね。正直言って嫌いですよ。軟弱者めが!って思いますよ。でもその批判が、もしかしたら自分に当てはまるのでは、という恐怖がある。人の軟弱さを美化したこの映画のカタルシスに誘惑されている自分がいる。ああ、まんまと揺さぶられているじゃないかと、なってしまうわけです。

これはただの推測ですが、おそらく新海誠はかつて「根暗男子」だったんでしょう。これまでほとんど恋愛劇しか作ってない時点で、コンプレックスの塊なのが分かるじゃないですか。今はどうか知りませんが、その「根暗さ」を昇華すること、それを自分の武器として作品を作ってきたんだろうと思います。その執念は素直にすごい。ただね…『言の葉の庭』には、正直ドン引きしましたよ。男子高校生の妄想かよ!って思わず叫びました。いやマジで叫んだ、自分の部屋で。二人だけの空間とか時間を作り出すのは、たしかに上手い。上手くなってる。すごい!でも童貞くさい!

それが、その次の作品『君の名は。』では、なんかいい匂いのする童貞になってるんですよ(なんか語弊がありそう(笑))。え、やだ。なんでそんないい香りするわけ?いつもの汗臭い感じは何処へ行ったの?そう、急には受け入れられないんですよ。でも、もう一年くらいたったし、そろそろそういう感覚も薄れてきたので、真面目に受け入れてみようという感じになってきました。地上波みてないけどね(笑)。

 

結論から述べると、やはり嫌いです。それは『秒速』に対する嫌いとは全く違います。こっちは、感情移入できてしまうから嫌いですが、『君の名は。』まったく感情移入できないがために嫌いです。しかし、すごさは感じる。それはいったいなにがすごいのだろう。

要素に分けて見た場合、とても素晴しいという言葉しか出てこないんですよ。まず、絵がイイですよね。キャラクターも少年少女みんな可愛い。恋愛模様は、見ててニヤニヤできる(するとは言ってない)。

ただね、問題は全体的に見た時に、意味わからん、何が言いたいの?ってなるんですよ。『君の名は。』がこれまでの新海作品と決定的に異なるのは、恋愛以外のリアルな要素が強く出てることですよね。つまり、大災害を回避するというスペクタクルですが、これが何のためにあるのか、さっぱりわからない。いや、『アルマゲドン』での隕石は、悲劇的でありながら結局兄ちゃん姉ちゃんの恋路を成就させましたから、映画としてなしとは言いませんよ。けどね、高校生の恋愛を盛り上げるための装置としては大げさすぎるんですよ。スケールがデカ過ぎて高校生には身に余ってたし。実際、尾崎豊もびっくりな爆弾テロをやってもらわないと、話が持たなかったわけですからね。リアリズム、現実的な描写の限界をそこに感じるわけです。言っちゃ悪いが、『アルマゲドン』のほうがリアリティーがある。

だからこの映画、全体の印象が散漫で、なんとなくすげーっていう感想で終わりかねないんですよ。伏線もいっぱいあって、絵も凝ってて、キャラも可愛くて、スケールもデカくて、なんとなく希望が持てるラストだからすげー。でもそれって情報に忙殺されて、表面をなぞってるだけじゃないの?と思ってしまう。

この映画のテーマって、すごくわかりにくいんですよ。大災害を乗り越えて、時空まで越えちゃって、二人が出会って終わり。でも結局最後だけ切り取ったら、二人の男女が出会っただけなんですよ?全部忘れてるんだから。これまでのことは、夢のようなもんだからって言われて一瞬はぁっ?ってなるよね。だって、これまでやった1時間は、少なくとも二人にとって夢みたいなもんなんだぜ?やばくねー?まさか、この映画『インセプション』だったのか…?と頭をよぎるじゃないですか。

でも、この映画ってこのラストが全てで、つまり、この映画のテーマって一期一会って言葉に尽きると思うんです。わかりにくいけど、たぶんきっとそう。今出会ったこの人は、きっとどこかでつながる運命だったのだ、一回そう思って見ましょうよ、と僕たちに語り掛けている。絵で、可愛いキャラで、恋愛で、スケールのデカいスペクタクルで運命ってものに説得力を持たせて、大きな歯車がちょうどハマって今あなたと出会ったのだと、それは勘違いかもしれないけど、そう思って見るとなんかいいことある気がしませんか?そう言いたいのだろうね。じゃあ、誰もが記憶している震災を舞台装置に使った理由は何かといえば、癒しだよね。人との繋がりを大事にして、あの震災を克服していこうよ、ってメッセージなわけだ。

これは、正直に言えば、国家規模の惨禍をなんだと思ってるんだと、そう思った。新海誠は、とんでもない勘違いの境地へと旅立ってしまったなって。ある意味で飛びぬけちゃっててすごいよ。だって、あの震災から毒気を抜いて、みんな救ってやろうなんて、平平凡凡な人間なら思わないもの。映画業界人から人気がないのって、この映画が毒気がないからなんだろうなって納得もいくよ。でも、こういうのがみんなが見たかったもので、それが新海誠本人の意識を飛び越えて世相を反映することになった。一番困惑してるのは、監督本人なんじゃないかな。業界の人間だと思ってたのにアウトサイダーと見なされ、観客からは称賛されてるけどたぶん本人の意図とはまたズレてるのだろうしね。業界人たちも、毒気なんてそんなもんいらねーんだよって客から言われちゃって、立つ瀬がない。

なぜ映画に毒気が必要なのかと言えば、それは観客が映画を通して自分と向き合うように仕向けるためですよね。『秒速』が僕にとっては衝撃的だったのは、すごい毒気があったからだし。一方で、自分と向き合うなんてしんどいから嫌だっていう気持ちもよくわかる。僕、『けものフレンズ』めっちゃ好きだし。ああいう癒し系な作品が最近売れるのも、『君の名は。』のヒットと無関係じゃないと思う。僕は『まどマギ』みたいな毒の塊みたいな奴も、『けもフレ』みたいな純真無垢な奴も両方好きだよ。ただ『君の名は。』の問題は、震災っていうリアルに対して、その傷を癒そうなんて傲慢を起こしたことなんですよ。それ、全然リアルが伴ってないじゃないですか。神社の巫女さんが、東京のイケメン男子になっても、高校生が爆弾テロ起こしても、どうにもならないんですよ現実は。圧倒的なほど細部にこだわって、どこ切り取ってもインスタ映えしそうな絵で描いてみても、無理なもんは無理ですよ。

「人との繋がりを大事にしようよ、そんでもってあの震災を克服していこうよ」って、それ自体はいいメッセージだけど、そこへ至る道があまりにも現実味がないので、それを見た各々が震災というリアルに向き合うようなきっかけをくれる映画にはなってない。大きな嘘で夢をみさせてくれる、癒してくれる、それだけでも十分いい映画なのかもしれない。確かに『秒速』より健全に見えるし、ポジティブな方を向いてるよ。いやー『君の名は。』って素晴らしいね。