noumos blog

語ることって大事

【考察】押井守 je t'aime 愛す、しかし愛されない。

まず思ったのが、これ押井守作品の中で一番直球なんじゃないか?ということだ。

どうやら監督本人の発言によると人間が存在しない世界でも愛は成立するかというテーマのもと制作したらしい。

 

本作に登場するのは一体と一匹だけ、立体関節人形と今は亡き監督の愛犬バセットハウンドのガブリエルである。犬は無垢な愛情を注ぐ、一方人形はただ目的の遂行のためだけに行動している。他にも作中には鳥であったり、ゲームセンターであったり、橋であったりといままでの押井守作品を見てきた人なら馴染みのあるアイコンが含まれている。

 

最初に出てきた橋、パトレイバー2ではこれを破壊することで人間のコミュニケーションを断絶を表現していたが、今回はこれが交差させ、合流することのない心、理解し合えない不条理として描かれているのがなんとも悲しくなる。これがこの物語全体の暗示となっているのだろう。

f:id:noumos:20140811030203p:plain

 

ガブリエルは、誰もいないこの世界で(鳥は置いておく)唯一生命体らしきもの、他者と出会う。ほかにも実は人間らしきものとして女性像や着物を着たマネキンが映されてガブもそれを見ているのだが、どれも他者たり得ていない。動くか動かないか、これが決定的な両者の違いといえるだろう。

f:id:noumos:20140811024952p:plain

f:id:noumos:20140811024941p:plain

 ガブは遊び相手を探している。立体関節人形と出会ったガブは玉を投げてもらいそれを拾ってくる「モッテコイごっこ」をしたいがために、玉を差し出す。しかし、毎回彼女はそれを受け取らず空へ去っていく。ガブはどんな玉なら受け取ってくれるのかと、いろいろな玉を差し出すが、とうとう最後に持ってきた玉が実は爆弾であり、それに反応した彼女は初めて新しいアクションを起こす。がしかし、ここでガブが遊んでくれるのを期待したのも束の間、人形の腕に仕込まれたガトリングが火を噴き、ガブが持ってきた爆弾によって人形は破壊される。

 

この物語のヒロイン?ともいえる立体関節人形がイノセンスに登場するような人形と違うのは、背中にホルンを背負い、腕にはガトリングが仕込まれており、しかも空を飛ぶというところで、この人形なかなかめちゃくちゃな人形である。

f:id:noumos:20150422232340p:plain

そしてこの人形がやってくる時刻を告げる時計もまた意味深なカットとして挿入されている。

f:id:noumos:20150422232516p:plain

 それぞれの要素をアイコンとして読み取ると、まずホルンは音楽、ガトリングは兵器、戦争、人形は人間、女、そして時計は時間となる。そして、先ほども述べた「動く」という条件。

 

なんだかそんなに単純でいいのか、という気がしてくるがこの人形は「映画」を表しているのではないだろうか。そして、それと戯れようとする犬が監督本人だとすれば大体話は見えてくる。

 

 押井守はその著書でも映画とは何なのかを知りたいと繰り返すように述べている。

映画というものは誰もそれがなんなのかわからないものだ、とも言っていたはずだ。

だとしたら、映画が何なのかわからない、それでも映画を撮り続ける押井監督の映画に対する愛の物語がこの「je t'aime」という作品だったのだといえるのではないだろうか。

 

 「教えてよ」と繰り返し叫ぶgrayの曲もあながち見当外れではなく、符合している部分もあるということになるだろう。